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相利的・利他的・搾取的コミュニケーションの進化 |
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多くの動物が個体間でコミュニケーションを行う。コミュニケーション能力は、これらの動物の進化のある段階で、自然淘汰によって獲得されたのだろう。コミュニケーションは、信号を発する個体(発信者)と、それを受ける個体(受信者)との間で成立する。このため、コミュニケーション能力の進化は、信号の発信能力と受信能力とが共進化的に出現する過程として理解できる。 コミュニケーションの結果、発信者から受信者へは何らかの情報が伝達される。個体間の情報伝達はコミュニケーションの重要な側面であるが、コミュニケーション能力の進化を考えるうえでより重要なのは、伝達された情報が受信者の行動におよぼす影響である。コミュニケーションの結果、受信者の行動が変化し、その変化が発信者や受信者の生存や繁殖を左右するとき、自然淘汰が個体間のコミュニケーション能力の違いに作用するのである。 動物がコミュニケーション能力を獲得するためには、発信器や受信器、および情報処理系などの新たな器官を発達させる必要がある。これらの器官をもつことは、それだけ余計なエネルギーを消費することにつながり、それ自体では生存や繁殖に負の効果を与えると考えられる。したがって、自然淘汰によってコミュニケーション能力が進化するためには、コミュニケーションの成立が、これらのコストを上回るだけの生存・繁殖上の利益を、発信者と受信者のうち、少なくとも一方にもたらす必要がある。 コミュニケーションの成立がもたらす効果に応じて、コミュニケーションを3つのクラスに分類しよう。発信者と受信者の両方が生存・繁殖上の利益を得る場合を、相利的コミュニケーションと呼ぶ。これに対して、発信者がコストを支払って受信者が利益を得る場合を、利他的コミュニケーション、発信者が利益を得て受信者がコストを支払う場合を、搾取的コミュニケーションと呼ぶことにする。 Tamura & Ihara (2011)は、これら3つのクラスのコミュニケーションについて、信号の発信能力と受信能力の進化を、2遺伝子座モデルを使って分析した。このモデルでは、ある1つの遺伝子座が発信能力の有無を決定し、もう1つの遺伝子座が受信能力の有無を決定する。発信能力や受信能力をもつことには生存・繁殖上のコストがともなうが、それらの能力を使って他個体とのコミュニケーションに成功すれば、生存・繁殖上の利益を得られる。 発信能力や受信能力をもたない個体の集団に、これらの能力をもつ少数の個体が侵入する可能性について考えよう。言い換えれば、これはコミュニケーション能力の初期進化は可能かという問題に相当する。発信能力をもつ個体は、受信能力をもつ個体と相互作用しない限り、発信能力をもたない個体より不利である。同様のことが、受信能力をもつ個体についても言える。ところが、これらの能力をもつ個体は少数であるため、コミュニケーション可能な個体どうしが相互作用する可能性は低い。実際、完全に混合された集団を仮定した場合、コミュニケーションのクラスによらず、コミュニケーション能力の初期進化は不可能であることが、モデルの解析によって確認されている。 集団が完全に混合されていない場合には事情が異なってくる。特に、各個体が自分のきょうだいと相互作用しやすい傾向がある場合を考えよう。生まれた場所から大きく分散しない動物では、このような傾向が強いと考えられる。この場合、発信能力や受信能力をもつことのコストが十分小さく、コミュニケーションの成立がもたらす利益が十分大きければ、コミュニケーション能力の初期進化が可能である。このことは、どのクラスのコミュニケーションについてもあてはまる。一方で、きょうだい間の相互作用がどの程度の割合で起こるときにコミュニケーション能力の初期進化が起こりやすいかは、コミュニケーションのクラスによって異なる。 ここまでの話では、生得的な信号によるコミュニケーションを想定していた。しかし実際には、鳥の歌やヒトの言語などのように、文化伝達される信号を介したコミュニケーションも知られている。Tamura & Ihara (2011)は、モデルを拡張することにより、信号が親子間で文化伝達される場合についても扱っている。この分析によれば、信号が文化伝達される場合、コミュニケーション能力の初期進化は概して起こりにくくなる。ただし、コミュニケーションが搾取的な場合に限り、信号の文化伝達が、コミュニケーション能力の初期進化をむしろ起こりやすくすることもある。 文献 Tamura, K., and Ihara, Y. (2011) Classes of communication and the conditions for their evolution. Theoretical Population Biology 79, 174-183. doi:10.1016/j.tpb.2011.03.001 |