研究室の目標

ヒトはなぜヒトになりヒトであるのかをゲノム進化から探る。

研究テーマ概要

生物はその進化の過程で、ゲノムに生じた変化により様々な多様性を獲得してきました。
私たちの研究室では、ゲノムに刻まれた進化情報を基軸に、以下のような課題について研究を進めています。

(1)遺伝子発現機構の多様性

“進化的に著しく非保存的な転写因子の転写活性化ドメインが、 遺伝子発現機構にどのような多様性を生じさせているのか”という課題

(2)脳で発現している遺伝子の多様性

“限られた数の遺伝子で、 遺伝子の数を超えたニューロンの多様性がどのようにして生み出され得たのか”という課題

(3)古代人類の遺伝的多様性

“私達人類がどのようにこの地球上に適応放散していったのか”という課題



現在進行中のテーマ


■ 手法1 ■ 実験的分子進化学(in vitroおよびin vivo)


単一アミノ酸反復配列の分子進化学的意義

単一アミノ酸反復配列とは文字通り、単一種類のアミノ酸が連続して並んだ配列のことである。 この単一アミノ酸反復配列は、過去の様々な研究からひとつの機能ドメインであることが示唆されてきた。 また哺乳類は、少なくとも両生類に比べて、豊富に単一アミノ酸反復配列をゲノム中に持つことがゲノムレベルの比較から明らかになっている。
ヒトはいかにして多様性と複雑性を獲得したのか?
遺伝子はいかにしてそれを可能にしたのか?
我々は、この課題に対する答えとして、進化的に新たに獲得された単一アミノ酸反復配列に注目している。 単一アミノ酸反復配列と相互作用するタンパク質 のスクリーニングやその相互作用様式の解析、 単一アミノ酸反復配列を欠失したノックインマウス の表現型解析(東京大学医科学研究所発生工学研究分野との共同研究) などのアプローチにより単一アミノ酸反復配列の機能を探る研究を行っている。


■ 手法2 ■ 解析的分子進化学(in silico)


全ゲノム塩基配列を用いた比較DNA解析

分子進化を探るにあたって、一つ一つの遺伝子に着目してその進化を明らかにすることは非常に重要なことである。 しかし、その一方で、全体を見渡して初めて明らかになることもある。 近年国際的なプロジェクトが立ち上がり、脊椎動物の全ゲノム塩基配列の解読が進んでいる。 2003年4月にはヒトの全ゲノム塩基配列解読終了の宣言があり、また、マウス、フグでも大部分のゲノム塩基配列が決定された。 これらの配列はそのままでは記号の羅列であるがそこから得られる情報からは新たな多くの知見がもたらされることが期待される。
われわれの研究室ではこの全ゲノム塩基配列を対象とし、かつては不可能であったゲノムレベルでの解析を行い、 ヒトの特異性に関して、あるいは脊椎動物の進化に関して新たな情報を導き出そうとしている。


■ 手法3 ■ 分子人類学(in vitroおよびin silico)


古代人類学の適応・放散

現代人類は数万年前のアフリカ(〜パレスチナ)を起源とする。 その後、様々に適応・放散し、現在見られるような人類集団を形成した。 しかし、その適応・放散がどのようにして為されていったのかについて、いまだ未解明な部分が多い。 これは、これまでの人類学的研究は化石記録に頼る他なく、しかし化石記録はやむを得ず断片的であるためであった。 しかし、80年代からの分子生物学的手法の進歩は、出土する骨からのDNA解析を可能にし、 人類学においても化石記録、DNA解析の両面からの情報の蓄積が進んでいる。
我々は、適応・放散の過程でより祖先的な遺伝的背景を残して土に埋もれたままの古代人類の骨や歯からDNAを抽出し、 古代人類の遺伝的背景を明らかにするとともに、 現代人類のDNAとの比較により、人類の適応・放散の歴史にアプローチしている(中国科学院遺伝研究所との共同研究)。