本課程は主として植物を研究の対象として基礎生物科学を専攻しようとする学生のための課程である。学生定員は8名であるが、8名~14名を受入れている。本課程における教育と研究は植物学課程に所属する担当教員及び理学部附属植物園に所属する担当教員全員によって行われている。植物を対象とした生物科学は、広範な境界領域を含み、現在世界的に急速な発展を遂げつつある。植物学課程においては、その最も重要ないくつかの分野の研究が行われている。各研究室での研究内容は、およそ次のとおりである。
植物細胞・組織・器官の分化制御機構を細胞生物学・分子生物学・植物遺伝学・植物生理学の立場から研究している。培養細胞系とシロイヌナズナをモデル系として用いて,特に,1)植物細胞の分化転換,2)植物分化全能性,3)植物細胞の細胞間相互作用,4)プログラム細胞死の分子機構について研究を進めている。
植物と微生物との相互作用について研究を進めている。特にマメ科植物と根粒菌や菌根菌との関わりに焦点をあて,ミヤコグサを材料にその分子機構の解明を目指している。また,植物細胞の特徴は,植物ホルモンにより増殖・分化が制御できることであるので,その機構を制御する遺伝子群を探索するとともに,その分子機構を明らかにしようとしている。
細胞内のオルガネラの多くの間を結ぶ小胞輸送課程-メンブレントラフィックの分子機構とその役割を研究している。方向性を持った分泌とエンドサイトーシスによる細胞極性の形成と維持,組織,器官形成,液胞の形成と維持による細胞内の恒常性維持や環境応答などが重要なテーマとなる。主に高等植物シロイヌナズナを材料とし,分子遺伝学,生化学,細胞生物学(とくにライブイメージング)の手法を用いる。また、高等植物に特有の重複受精の機構の解明にも取り組んでいる。
生物の構造や機能を見て疑問が生じる際,その疑問は二通りに分かれるだろう。「そもそもどうしてこういう形をし,こういう機能を持っているのだろうか?」という適応的・究極的な意味を問うwhy疑問と,「どのようにしてこのような形になり、こういう機能が発現するのか?」という至近メカニズムを問うhow疑問である。植物生態学研究室は,「Howも追求する生態学,whyも考える生理学」を合言葉に,植物に特徴的な光合成とシアン耐性呼吸について,分子から森林にいたる様々なレベルにおける研究を展開している。ストレス応答の遺伝学的研究においては酵母細胞も用いている。
植物は,光,温度,栄養などの環境条件に応答して,発生分化を行っている。その植物の発生分化を制御する遺伝的要因を分子生物学的,分子遺伝学的手法を用いて解明することをめざしている。具体的には,(1)発生分化の最も重要な過程である花芽分化誘導の遺伝子支配の研究,(2)植物の花茎の最終的な形づくりの遺伝子支配の研究,(3)種々の環境要因に応答した遺伝子群の研究,である。また,真核生物のモデルケースとしての出芽酵母を用いて,細胞外からの刺激に応答するシグナル伝達経路,ユビキチンやその類似タンパク質による翻訳後修飾,に着目し研究を進めている。
本課程における研究・教育は理学系研究科附属植物園(小石川本園と日光分園)との密接な関係のもとに行われている。植物園では系統分類学や生態学などのフィールドワークを中心とした研究が行われている。学生諸君に対する講義と実習は,植物学課程と植物園の全教員によって行われ,それぞれの施設を多角的に利用するカリキュラムのもとに,植物に関する全般的知識と基礎的実験法を教授している。
本学の教職員・学生が植物を研究する場として,小石川植物園の通称で知られる本園(文京区白山,面積16ha)と日光分園(栃木県日光市花石町,10ha)とが設置されている。庭園は研究用植物の収集展示と東アジアを特徴づける植物の系統保存を主な目的に植栽がおこなわれており,日本庭園,樹木園,分類標本園,温室などに国内外各地の維管束植物6,000種以上が収集栽培されている。また東京大学ハーバリウム(植物標本室)所蔵の170万点の標本のうち約1/2を分担収蔵し,植物分類学関連図書約2万冊がある。こうした本園および分園の植物資料および研究施設は,植物園研究室の教育研究活動など本学における植物学の教育研究に活用されているほか,学外の研究者にも広く利用され,多大の便宜を与えている。庭園は有料で一般公開されている(学生証提示で無料)。
