動物学は自然科学の一分野としてきわめて古い歴史をもつ学問であるとともに、近年著しく発展、変貌し、生物科学の中核を担うに至っている学問領域である。生物科学には、生化学、分子生物学、生理学、生態学等のように、方法論に基づいて分類された分野が多数にある。それらはいずれも、生命現象を解明するのにどのような角度で切り込むかという態度を代表している。しかし、言うまでもなく、具体的な生命現象、例えば鳥が飛ぶ、蝉が鳴くといった生命現象があって、初めてそれら生物科学の諸分野は意味をもつ。言い換えれば、まずどのような生命現象をおもしろいと思うかが生命科学を学ぶ出発点である。動物学課程で行う学部教育では、何よりもこのことを重要と考え、できるだけ多様な生命現象を紹介し、その理解へ導くことを最大の目的としている。そして、このとき強調されるのは、生命現象が多重構造からなるという事実である。大腸菌からヒトまで、すべてを貫く普遍性生命現象がある一方で、特定の生物群や生物種だけがもつ特異的生命現象も存在し、どちらへの理解が欠けても、真の生命科学は成り立たないからである。
動物学コースの主な教員は動物科学大講座に属し、本郷キャンパス理学部2号館で、分子生理学、動物発生学、生体情報学、細胞生理化学、分子生物学の5つの研究室に所属して教育・研究を行っている。4年生になると、各学生は臨海実験所を含むこれらの研究室の1つに配属され、特別実習を行う。1年間にわたり、各研究室の研究雰囲気の中で、個別の生命現象を対象として研究を行うことになる。また、臨海実験所、進化多様性生物学大講座、海洋研究所、総合文化研究科などからの教員も学部の教育に携わっている。
2007年現在、動物学コースを構成する研究室名および研究内容の概略は次のとおりである。以下の一覧表から各研究室のホームページを訪れることを勧める。
神谷 律 教授 広野 雅文 准教授 若林 憲一 助教 柳澤 春明 特任助教
細胞の運動・行動の機構を分子生物学、遺伝生化学、生物物理学などの多様な方法で研究している。特に、鞭毛繊毛の分野でもっとも研究が進んでいるクラミドモナスを用いて、以下のテーマを重点的に研究中である。
(1)鞭毛運動の分子機構。微小管とダイニンの相互作用がどのように制御されて振動的 運動が発生するのか。生物物理学、分子生理学的アプローチの研究。
(2)鞭毛基部(中心子)構築機構。すべての動物細胞に存在する中心子は細胞周期に応じて複製される不思議な構造物である。突然変異株を使って形成機構に迫る。
(3)アクチンとアクチン調節蛋白質の機能。当研究室で得られた正常なアクチンを失った特別変異株を使って、アクチンの新たな機能を追求する。
武田 洋幸 教授 越田 澄人 准教授 島田 敦子 助教
動物発生学研究室では、主に小型魚類(ゼプラフィッシュDanio rerio とメダカOryzias Iatipes)を用いて脊椎動物初期発生過程における体軸形成および器官形成の機構を研究している。特にこの実験系の特徴である胚操作技術(細胞移植やマイクロインジェクションによる遺伝子過剰発現、トランスジェニック固体作製)と遺伝子的手法(突然変異体など)を組み合わせた実験を行って、脊椎動物の普遍的な発生機構の解明を目指している。特に以下の発生現象に着目して研究を進めている。
(1)神経組織の発生と体軸に沿った領域特性の獲得機構
(2)中胚葉性器官の発生機構:体節などの繰り返し構造の創出機構
(3)ミッドラインシグナルの伝達機構と調節機構:脊索からのシグナルの分子機構
(4)哺乳類消化管上皮細胞の部域特異的な増殖と分化の調節機構
岡 良隆 教授 朴 民根 准教授 赤染 康久 助教 阿部 秀樹 助教
(1)生体情報系(神経系・内分泌系など)の生物学的な機能を分子から個体までのレベルで総合的に理解するために、主にペプチドホルモン産生ニューロン、魚類の特定の神経核を含む脳スライス標本、内分泌細胞、卵・精子などを題材として多角的研究を行う。研究の手段としては、分子生物学、神経生物学、細胞生物学、実験形態学、行動生物学など、分子レベルから個体・行動レベルまでのすべてのものを必要に応じて駆使する。
(2)脊椎動物の生殖情報伝達系のホルモンとその受容体の分子構造と生理機能の多様性から生殖現象とその情報伝達系の進化と適応の側面を理解する。研究は哺乳類・爬虫類などの個体または培養細胞系を用いて組織学・分子細胞生物学的に行う。
久保健雄 教授 加藤邦彦 助教 森岡瑞枝 助教 竹内秀明 助教 國枝武和 助教
主に昆虫を研究対象とし、生命現象の多様性に着目した研究から、根元的な生命原理の理解を指向している。具体的な研究項目は、以下の通り。
(1)昆虫(ミツバチ)の社会性行動の分子的基盤の解明を目的として、脳の高次中枢で、領野や行動特異的に発現する遺伝子の同定と解析を行う。
(2)ミツバチ社会の成立要因を解析するため、働き蜂の分業に応じた生理状態の転換の分子機構を解析する。
(3)脊椎動物の器官再生機構を解明するため、ツメガエル幼生の尾再生に関与する遺伝子の同定と機能解析を行う。
(4)異種生物種間の相互作用の好例として、細胞内バクテリアの感染による、宿主昆虫の性と生殖操作のメカニズムを解明する。
(5)細胞内小器官の起源への関心から、宿主昆虫と細胞内共生菌の相互作用を、分子生物学・細胞生物学的観点から解析する。
平良 眞規 准教授
主としてアフリカツメガエルを用いて、シュペーマン・オーガナイザーならびに脳の誘導とパターン形成の分子メカニズムを解析している。
赤坂 甲治 教授 吉田 学 講師 佐藤 寅夫 助教 黒川大輔 特任助教
生物学の最重要課題のひとつとされる「多様性の生物学」を基盤に置き、海洋の多様な生物における発生生物学的研究および系統分類学的研究を、21世紀の生物学、生命科学を担う研究拠点形成を目指し行っている。
動物学コースの教員、大学院学生、研究生等による研究実績は、それぞれの国際的専門誌、国内専門学会誌等に幅広く報告されている。各研究室ごとのセミナーの他に、課程全体としては毎月1回動物学コンファレンスを行うなど、研究室間の交流も活発に行われている。
